Marketing Intelligence Report · Philip Kotler 解説

3.0 価値主導と比較表

インサイトの発見・共創パラダイムと1〜3.0完全比較表

対象理論 Marketing 1.0 → 5.0
提唱者 Philip Kotler
主要概念 デマンド / ニーズ / インサイト / アイデンティティ
OVERVIEW / 本レポートの位置づけ

本レポートの概要|3.0 価値主導と比較表

この回のレポートは全4本に分割しています。本ファイルはその2本目、テーマは「3.0 価値主導と比較表」です。

3.0の時代
2000〜2010年代
社会問題・不信・ネット革命の時代
転機
リーマンショック
企業・金融機関への社会的不信が増大
3.0の核概念
インサイト
顧客が気づいていない深層の欲求
比較表
11軸
時代から代表フレームワークまで比較

2000年代に入るとインターネットの普及で情報格差がほぼ消え、リーマンショックによる企業・金融機関への不信、社会的不平等や環境問題への関心が重なった。この転換の中でMarketing 3.0が焦点を当てたのが「インサイト」であり、顧客自身が気づいていない深層の価値観や動機を、対話を通じて掘り起こす、あるいは企業側が新たに作り出すものと位置づけられる。

3.0では「競争」から共創(Co-creation)へとパラダイムが移り、企業理念・パーパス経営、CSV(Creating Shared Value)、株主だけでなく顧客・従業員・地域社会まで視野に入れるステークホルダー経営が重視される。エルメスが漫画家・竹宮惠子との協業でブランド価値を構築した例のように、品質以外の物語や文化的文脈で選ばれるブランドづくりが3.0的戦略の典型である。

本パートでは、時代背景から代表フレームワークまで11の比較軸で1.0・2.0・3.0を並べた完全比較表も収録する。顧客像が「大衆」から「合理的消費者」、そして「心・精神・感情を持つ全人格的存在」へと変化し、企業の社会的役割も製品供給から顧客満足の最大化、社会課題解決への参与へと段階的に広がっていく過程を一覧できる。

Section 04

Marketing 3.0 — 価値主導の時代

時代背景:社会問題・不信・インターネット革命

2000年代に入ると、いくつかの構造変化が同時進行する。

中心概念:インサイト(Insight)の探索

3.0のキーワードは「インサイト」。これはニーズとは異なる。

1.0
デマンド(Demand) 顧客が「何個欲しいか」という数量的・顕在的な需要。供給不足の時代に対応する概念。
2.0
ニーズ(Needs) 顧客が「何が欲しいか」を言語化できる段階の欲求。顧客に聞けば答えが返ってくる水準。
3.0
インサイト(Insight) 顧客自身が気づいていない、しかし刺さる価値観・欲求・動機。対話を通じて掘り起こすもの、あるいは企業側が作り出すもの。
「インサイトとは、お客さんが気づいていない欲しいというものを掘り起こしてあげることでもあるし、お客さんの星(欲求)を作り出すやり方でもある」
— 講義内発言より

競争パラダイム:競争から共創(Co-creation)へ

1.0〜2.0は「競争」——同じフィールドでいかに勝つか——が中心だった。3.0では「共に価値を作る」という共創モデルに移行する。商品は企業が一方的に設計するのではなく、顧客との対話の中から生まれてくる。

おにぎりの例(3.0):「このおにぎりを買うと、オーガニック農家を支援できる」「環境負荷ゼロの包装を使用」——味・品質とは別の軸(社会的文脈・ブランド・背景)で選ばれる商品になること。

ブランドとしての3.0:エルメスの事例

エルメスのバッグは品質だけで選ばれているわけではない。「エルメスというブランドだから買う」——その背後には長年かけて積み上げられた物語・価値観・文化的文脈がある。エルメスは漫画作家・竹宮惠子との協業によりエルメス公認漫画を制作・販売するなど、ブランド価値の構築に多面的なアプローチを取っている。これはまさに3.0的戦略である。

Section 05

1.0 / 2.0 / 3.0 完全比較表

比較軸
VERSION 1.0 製品主導型
VERSION 2.0 顧客主導型
VERSION 3.0 価値主導型
時代
1950年代〜
1970年代〜2000年代
2000年代〜2010年代
社会背景
大量生産・大量消費
商品の同質化・差別化競争
社会的不平等・環境問題・企業不信
中心的問い
いかに大量に安く作るか
いかに顧客ニーズに応えるか
いかに社会と共に価値を作るか
マーケティングの焦点
デマンド(数量的需要)
ニーズ(顧客の欲求)
インサイト(顧客が気づかない欲求)
競争パラダイム
完全競争(生産量が武器)
独占的競争(差別化が武器)
共創(協業・価値共同構築)
顧客像
大衆(Mass)
目的を持った合理的消費者
心・精神・感情を持つ全人格的存在
情報の流れ
一方向(企業→消費者)
双方向(マスメディア活用)
多方向(SNS・ネット双方向発信)
コミュニケーション
一方的な「話」
「会話」(相互やり取り)
「対話」(言語化できないものを掘り起こす)
企業の社会的役割
製品を作り供給する
顧客満足を最大化する
社会課題の解決に参与する
人間的理解の深さ
浅(行動・購買データ)
中(ニーズ・ペルソナ)
深(価値観・感情・精神性)
代表フレームワーク
プロモーション・ミックス
4P・STP・顧客満足度
パーパス経営・CSV・ブランド文化論